第66話    「久しぶりの竹竿作り X」   平成17年07月10日  

素人の庄内竿作りは、出来れば余り曲がっていないニガタケを使うのが良い。はじめから玄人のように、良い竹であればいくら曲がっていても採って来るのとは根本的に違う。自由自在に矯められる人たちとは、異なるから多少手を入れるだけで竿に出来る竹を矯めるようにしたいものである。そんな竹を探して竹薮を探してみるが、そう簡単に見つかるものではない。

竹を取るには、まず竹の経過年数を知らなくてはならない。二、三年も竹薮に入って竹を取っていれば一年古、二年古位は大抵区別がつく様になる。一年古はまだ袴が真新しいから、誰でも直ぐに判断出来る。二年古からは上の方から少しずつ竹の袴の部分から横枝が生じて来るが、まだ袴の大部分がくっ付いているから判断出来る。三年古以上となると袴の部分が大分剥がれて来て、横に出ている枝数が下へ下へと増えて来て、同じ場所から横枝が2〜3本突き出ている。さらにトップが枯れて来る竹も現れて来る。4年古以上になると、横枝の数がさら増えて来て、袴は殆ど取れて竹肌が見えているものが多い。またトップは殆ど枯れているし、竹肌の色は少し黄色味がかっている竹も出てくる。いずれにしても現場でニガタケを見て総合判断で何年古かを決定するしかない。これは自分なりの我流の判断であるから、それが正しいかは、どうかは分からない。

取って来たら枝を剪定バサミで大まかに払う。庄内では竹肌に傷を付けることを極端に嫌う。袴取り、芽取りで傷を付けてしまっては、良い竿は出来ない事になっている。素人では竹がまだ乾燥しないうちに芽を取ってしまうのが、竹質が軟らかいので比較的楽だ。少し高価でも、小刀は良いものを使うのが上達の早道である。一度で取ろうなんて思わず、何度かに分けて少しずつ取ることが大切である。この芽取り、袴取りの方法も色々な技法が存在するが、この時は大まかに取るだけで良い。

天日に1月半から2ヶ月位かけて乾燥させ、2〜3ヶ月位室内でさらに乾燥する。3月末から4月の初め頃からニガタケに火をかざして矯める。最近の大抵の竿師は火の調節の可能な、石油コンロを使用している。矯めたい場所に、少し竹を暖めてから和蝋を丁寧に塗って、竹をクルクルと回しながら火にかける。しばらくすると和蝋が溶けやがて沸々と沸騰して来る。この瞬間に竹を火から外して素早く竿を矯める。この瞬間のタイミングを外せば、あっと云う間もなく竹に焼け焦げが出来てしまう。この辺りも長い経験と勘が必要となる。

一回目の矯めでは大まかに曲がりを修正し、二〜三日置いてまた曲がりを修正する。一度や二度の矯めで決して真直ぐにはなってくれないから、ここは根気の戦いである。何度かの矯めで一応使い物になる竿が完成する。出来ればこれを2〜3年、出来れば4年は毎年矯めをやって行けばカチッとしまった良い竿に変身して行くのだが、大抵の人は作った竿を早く使いたいが為に、海見せと称し作ったその年から使っている。まだ完成していない竿の為に、使うたびに狂いや癖が出て来るからこれを毎年矯めて行く事になる。どちらが良いのかは、作者の気持ち次第と云う事になるが、自分も一日も早く使いたい後者に分類出来る。

関東、関西の和竿作りと庄内竿の作り方と、決定的に異なるのは数種類の竹を使用しない事である。飽くまでも延べ竿に出来る一本の竹を使って竿を作るという事が原則である。それに竿を中空にしたり、削ったりしない事、それに漆を塗ったりせず、矯める時は和蝋を使って矯める事の五つの違いであろうか。この他にも小さな点を上げればもっとあるかも知れない。